新年明けましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願い致します。 過去に何十回もこの挨拶をしてきましたが、昨年は私を含む多くの方々が、3月11日からしばらくの間、新しい年を迎えてこの挨拶ができるかも定かではなかったと思います。改めて、今回のお正月は、その意味と有難さを感じることができました。「死」を意識した時に初めて「生」を理解できる。人間はやはり対照的なものが二つは無いと物事を理解できない。一つのことだけ理解することはできないんですよね。 家族の本当の有難みも、一人になったことがないと分からない。そういった意味では、子どもの頃自閉症の傾向があり、且つ一人っ子で、学校に行っている時間以外は誰もいない家にこもり気味で最初の19年間を過ごした私には、家族の有難みが普通の家庭で育った人と違います。また、私は人生の最初の20年間で25回引越しし、内全く別の町への引越しが殆どで、国をまたいでの引越しも5回経験しました。そのため、過去14年間同じ場所に住み、3人子どもを育ててみて、初めて如何にコミュニティーの中のあらゆる年齢層の家族を持った人達が、一緒に家族を育てることが親子にとって如何に安全で安心な発見と学びに満ちているかという事も本当に有り難く感じました。これは家族だけではなく、仕事や会社についても当てはまると思っています。 不幸自慢(?)になってしまっているのは、私が書き手として未熟なもので、思いつくままに書いてしまっているからなので、どうぞお許し下さい。お伝えしたいのは、子どもや、部下などに安全、安心を乗り越えて対照的な経験をさせながら、見えないところ、気が付かれないところで導いくのは、親、リーダーの最も大きな役割であり、その役割を学び実践することが私たちの仕事と生きがいなのではないでしょうか?ということです。 今日から、インターネットで記事を書くたびに毎回下記のような免責条項を補足します: この記事は須田冨士子がこれを書いた時点での意見、思いであり、過去、又将来の意見、思いとは異なることがよくあります。人は育ち、変わるもので、年齢とその時点での時代において意見、思いが時には退化し、時には進化するためです。記事の引用、利用はご自由にして頂いて結構ですが、どうぞこれらをご理解下さい。
Category: 手法
2010年凄く楽しませてくれた商品たち
今年も家庭、仕事、楽しみのために沢山のものを購入したり、頂いたりした。大晦日にちょっとそれらの商品を紹介してみよう。 ポスタルコの合羽 米国IDEOのデザイナーに頼まれて案内した京橋のポスタルコ・ショップ。私が過去数年間考えてきたあるべき商品の姿がそこにあり、感激した。合羽は一目ぼれして、私にとっては高価な上、入手まで1ヶ月待ちだったけれど、迷わず買った。購入後1ヶ月程で、サンノゼ出張の際、大いに着る機会があったが、機能も着心地もよく、おしゃれだから着ていて気持ちも最高だった。 マックス・マーラの靴 服のメーカーだが、ステキな靴も展示されていて履いてみたら、ぴったり。履き心地が良かった。ドレス・シューズも、硬めでも歩きやすい。細部のデザインや、素材、色などマックス・マーラらしくステキ。惚れてしまい、2足も購入したが後悔無し! キャノンDSC HX1デジカメ スピードが速く、使い勝手が良く、写真の発色が鮮やか。ビデオの質も良い。大好き!! 友人から頂いたアーティスト・イヤリング 7月にコロラド州を訪問した際、友人から一足遅れた誕生日プレゼントに、アーティストが作ったピアス・イヤリングを頂いた。4年前に購入して、ほぼ毎日つけているサンゴとシルバーの指輪とぴったり。シンプルな服を着て、このイヤリングをつけるのが一番好き。大事に、大事にして、長く、長く身に着けたい。 キャノンのデジカメは、テクノロジーものなので、もっと良い機能+軽い、小さいものが出てきたら取り替えるだろうけれど、他の本当に気に入った商品たちは、みなできるだけ長く使いたいもの達だ。どれも壊れたら直し、何年も使うだろう。どれも使い勝手がと美しさが最優先。次に長持ちするもの。次にユニークなデザインという優先順位での選択。ユニークなデザインとは、私だけのもの、又は持っている人がまれということ。 2010年はもちろん一番楽しくて大切だったことは家族や友人、一緒に仕事をした人達とその人達との時間だった。でもこうやって商品たちをリストアップすると、マックス・マーラの靴以外はその人たちと繋がっている。ユニークさを大切にする。直しながら長く付き合う。 今後のデザイン、人、モノのありかたなのだろう。 今年も一年有難う!2011年もどうぞ宜しくお願いします!
デザインは合間に
デザインは合間にやる、と経験豊富で優秀なデザイナーが言った。 その道のエクスパートは、自分の得意分野にかける時間は比較的短い。何か手や体を使い他の作業を数時間やった後だと、集中して、他の作業に費やした時間の一部でその得意分野で結果を出せる。 そのデザインを合間にやっていると言った人は、グラフィック・デザイナー。小さなショップを持ち、そこでメール・オーダーも受けている。受注業務、検品、梱包、物流全て他数人のデザイナー達と一緒に作業をしている。商品の包装とかやっている間に頭の中が整理されるようだ。その後デザインの作業をすると集中してできる、と彼女は言う。 プロレベルとなると、デザイナーだからと言って、じっと座って作業ばかりしていると効率が悪いようだ。
「エスノ」って何だろう
聞こえは「エステ」みたい。軽い感じがする。 ウェブで検索すると、「エスノ」の意味は、 《元来は、民族を意味する接頭語》民族音楽。また、民族音楽の要素を取り入れた音楽、特にポップスをいう。 と出てきてびっくり。工業デザインや開発、研究に携わる人達が「エスノ」という言葉を、「エスノグラフィー」の略として使っているかと思っていた。調査や研究の際使う人間行動観察手法という意味だけじゃないんだ!と関心してしまった。 そして、私が良く知っている、日本大手製造企業に関わるデザイナー、研究者が使う「エスノ」の意味は、従来のエスノグラフィーの意味ともまた違う。従来のエスノグラフィーは、じっくりと人の行動を観察して洞察を得るもの。昨今企業内外でカジュアルに使われている「エスノ」の意味は、商品開発、デザイン手法として、行動観察だけではなく、その後の洞察のまとめ、総合化と、その総合化と作りたい、作るべき商品との関連付け、そしてその関係性を生かしたモノのカタチまで含まれていると思う。 ビジネスだけとはいわないが、こういった言葉の定義が、仕事をする際とても重要だ。ありがちなのは、デザイン会社と企業の企画部が、プロジェクトを始めた後、何だか上手く進んでいないと思い、そこで話し合って初めて言葉の定義の違いが明らかになること。 話し合いをして定義が明らかになり、調節して上手く収まることもあるが、ベストなものは、仕事を始める前にお互い楽しみながら仕事をしていて、定義が違っても、調節し、違うから面白い結果になること。簡単ではないが、やりがいはある。
デザイン手法:ユーザー観察で重要なこと、その2
今までユーザー観察を手伝ったり、一緒にさせて頂いて、観察者の洞察力・ひらめきが凄い!と感動した瞬間が多くあった。ユーザー観察は、もちろんそのような洞察を得るためのもの。ただ、それは重要でありながらも仕事のごく一部であり、その洞察をを分かりやすくレポートに落とし込むこと、そして最も重要なことは、それらを実際にモノやカタチに落とし込むということをお忘れてはならない。 話をユーザー観察中の洞察・ひらめきに戻そう。凄い洞察力やひらめきは、残念ながら昨今流行っているイノベーション・ワークショップに参加するだけ、または観察手法さえ学べばできるものではない。絵を書くのが上手くなるのと同じで、そもそも才能があるか、又は実際にやることを圧倒的に多く経験するかのどちらかが必要とだ。ただ、大きな希望もある。それは、全く才能が無い人でも、観察をするのが好きで、時間をかけてひたすら数をこなし、実体験を重ねていれば、洞察力が付き、ひらめきが出るようになる。私自身、その才能が無いが観察が好きで経験を重ねることによってできるようになった事例だ。ここではっきりとしておきたいことは、「時間をかけて実体験」と「時間をかけて勉強」は全く別ものだということである。座学の勉強はあくまでも予備知識、予習だ。練習前に勉強し、知識を持つことは有意義だが、実際の仕事となると、座学はほぼ役に立たない。文章、動画、言葉だけでは、あまりにも多くの事が受ける側のイメージに頼ることになるからだ。 ただユーザー観察で経験を積むというのは、実は以外と簡単。今日から1日1回でも、何かを見る時、今まで気にしなかった細部に注目し、何故その細部はそのような形になったのか考えてみることだ。そして、実際に人が訳の分からない使い方をしていても、あれは特別な使い方だからデータは使えない、などと放棄せずに、あるがままを受け入れる。効果的なやり方、効率的なやり方をしていなくても、だ。これを1ヶ月続けると、今まで見えなかったものが見えて来る。3ヶ月続けると、世界が自分が今まで思っていたような場所では無いことに気が付き始める。1年続けると、リサーチャーと呼ばれても良いくらい、洞察力が付くのでは?
デザイン手法:ユーザー観察で重要なこと、その1
IDEOデビッド・ケリー氏の『発想する会社!』を読んだことがある人は多いと思う。また、IDEO社の手法に基づき書かれた多数のイノベーション手法の本を読んだことがある人も多いと思う。バスケット・ボールに勝つためのシュート練習法の本を読んだあと、それに基づいて練習している自分のシュートを良いコーチに見てもらい、その形について指導してもらい、ひたすら練習を積む事でシュートが決まるようになるのと同じように、デザイン手法で使われるユーザー観察も練習を積み、良い結果を出してきた経験者から見て、アドバイスをもらい、ひたすら場数を踏むことで効果的なユーザー観察の結果を出せるようになる。 シュート練習のメタファーを使い続ける。本や、授業でシュート練習について学ぶ際、当たり前だがシュート自体の話になる。だが、効果的なシュートを行うためには、バスケットボール・ゴールが必要だし、そこには試合と同じように、見方チームや敵チームとしてパスやブロックをしてくれる人又はモノが必要だ。デザインやイノベーション現場では、企業、そこをコンサルティングするデザイン会社でさえ、実践の際、実はこのような重要なことができていないケースが多い。 1990年代にIDEOサンフランシスコスタジオの売れっ子デザイナーだったデビッド・トング氏(現在ザ・ディヴィジョン所属)の日本でのプロジェクトで何度かコーディネーターをさせて頂いた時に、そのようなユーザー観察前後のセッティングで問題が起きた。「ユーザー観察にこれだけかの時間と費用がかかるのは、どのような人達を観察することが今回のプロジェクトで有効か決めた後、セッティングしなくてはならないからです。それも、観察したいから見せて下さいといきなり人のお宅に入り込むことはできません。ユーザー対象者に依頼し、日時設定をし、謝礼も払わなければならない。その一連をセッティングしてくれるコーディネーター料金もかかります。」ほぼ毎回このような説明を行い、予算を組むのに一苦労する。ほぼ毎回予算の問題で、観察したい人数の30%減でユーザー観察が行なわれる。 今まで私が参加してきたユーザー観察では、観察時間自体は、1、2回に渡ってで各回1時間~3時間程度。ただ、一つの観察を決めるにあたり、最短で3日間、通常1週間はかかる。スピードの要素は、まず相手が自分の知り合いか、知り合いの知り合いぐらいの距離か。次はこちらと相手のスケジュールがいつ合うか。通常は観察対象のユーザーは、1地域につき(国の場合でも)1人だけではなく、3~8人ぐらいだ。それ以上多い人数もたまにあるが、イノベーション・リサーチや、デザイン・リサーチのためのユーザー観察は、アンケートのように広く調べ統計を出すためよりも、深く理解するためのものなので、人数はさほど多くない。