厳しい環境が強いリーダーを作る

私がここ5年間ぐらいで何度も読み返した本の中に、元NBAロサンゼルス・レイカーズ監督のPat Riley氏の本と元NCAAバスケットボールUCLA監督のJohn Wooden氏の本がある。コーチングの本は山ほど出回っているが、偉大な実績を残したコーチの言葉の重みに勝るものは無い。 元NBAシカゴ・ブルズでMichael Jordanの監督であり、現在最強チームのLAレイカーズの監督のPhil Jackson氏の本もそろそろ読んでみよう。 Wikipediaなので、オープンに全部信じる訳にはいかないが、Phil Jackson氏の生い立ちや、人生経験は非常に興味深い。正しくお手本通りの勝者運命を辿っているようだ。厳しい親。しつけ。勤勉。他にはけ口がないからスポーツを頑張る。輝かしい花形にはなれなくても、努力と頑張りで人気者になる。心理学、宗教の理解。大きな肉体的な挫折を乗り越える。 Pat Riley氏、John Wooden氏、Phil Jackson氏、同じような人生パターンだ。厳しさ、努力、頑張り、話方、言葉の使い方のマスター。人と同じく、チーム、会社や国も同じようなパターンがあると思う。こう考えると日本に大いなる希望を持つ。私はどちらかというと文化的にアメリカ人だが、だからこそ客観的になれるのだと思う。きっと今の厳しい環境に育てられている日本人若手から素晴らしい、強いリーダーが生まれてくることだろう。楽しみだ。

五感の内視覚は重要視されすぎている

人は外部の情報収集の8割を視覚で行っていると言われている。ただ、エスノ、行動観察をする際、他の感覚も視覚と同等に良く考慮する必要性がある。 例えばスターバックス。スターバックスが好きな人や、よく使っている人には色々と理由があるが、音楽が決め手という人もいる。エクセルシオールと流している音楽は明らかにテイストが違う。どちらかというと日本のジャズ喫茶を少し軽くしたような音楽ミックスなので、ラジオ局の選択をするようなものだ。それと比較して、音楽を軽視しているカフェやレストランは非常に多い。それらの経営者達が思っている以上に人は音のタイプと質にこだわっている。 例えばホテルの部屋。入ったとたんに、フレッシュな香りがすると、それで一気に快適な気分になる。その反面、かび臭い部屋は、見かけがどんなにキレイでも、気分が悪く、ホテル全体のイメージも悪くなる。 プライベートでもビジネスでも、人の感情は主に聴覚と嗅覚に左右されるのかもしれない。服装と香りをミスマッチさせた時の相手の反応の調査をだれかやったことがあるのだろうか?

TOTOのショールーム

海外デザイナーや研究者達が来日してインタビューや観察を行う際、IDEOであれば、殆どの来日者がTOTOのショールームの見学に行く。日本のサービスや、きめ細かいデザインなどが見れる格好な場所だからだ。アメリカではまだ一般家庭で電気便座は多くないので、女性デザイナーや研究者が来ると、感激される。何を優先的にするかは、文化で違ってくるので、TOTOで見るものは日本人にとって優先順位の高いものだ。 新宿のショールームを見ていて、その優先順位について三つ気が付いた。一つ目はキッチンのデザインで、オーブンの存在感の薄さ。オーブンがどんどん取り入れられているのは都心だけではないと思うが、少なくともABCクッキングセンターを見ると、オーブン料理は当たり前に取り入れられている。パンやお菓子作りのお料理教室は多い。それなのに、未だにオーブンはおまけみたいに扱われている。 気が付いたことの二つ目は、空間のど真ん中に、360度からアクセスでき、何人もの人達が囲って一緒に料理に参加しながら食事できるカウンター。日本でも、家族全員が一緒に作ることが家族としての楽しい経験を共有し、コミュニケーションを自然に取る場所がキッチンになってきているのだと思う。テレビ、映画はインタラクティブではない。でも料理は、話すだけではなく、身体を動かして一緒に何かを作る。それを内臓でも一緒に感じる。 三つ目に気が付いたことは、キッチンの理解、工夫に対してお風呂場の理解と工夫にはまだ可能性が沢山あるという事。一般の家では、まだ乾燥機に入れて乾かすということに抵抗を持っている主婦は多い。でもどういうわけか、脱衣室でハンガーに選択物をかけておき、除湿機を使って乾かすことはOKの様子だ。キッチンが家の中心で皆が集まれる場になっているように、お風呂場は自分も、自分の服もケアする場所なのだと思う。 最近あまりショールームめぐりをしていなかった。また意識的にやろう。

「エスノ」って何だろう

聞こえは「エステ」みたい。軽い感じがする。 ウェブで検索すると、「エスノ」の意味は、 《元来は、民族を意味する接頭語》民族音楽。また、民族音楽の要素を取り入れた音楽、特にポップスをいう。 と出てきてびっくり。工業デザインや開発、研究に携わる人達が「エスノ」という言葉を、「エスノグラフィー」の略として使っているかと思っていた。調査や研究の際使う人間行動観察手法という意味だけじゃないんだ!と関心してしまった。 そして、私が良く知っている、日本大手製造企業に関わるデザイナー、研究者が使う「エスノ」の意味は、従来のエスノグラフィーの意味ともまた違う。従来のエスノグラフィーは、じっくりと人の行動を観察して洞察を得るもの。昨今企業内外でカジュアルに使われている「エスノ」の意味は、商品開発、デザイン手法として、行動観察だけではなく、その後の洞察のまとめ、総合化と、その総合化と作りたい、作るべき商品との関連付け、そしてその関係性を生かしたモノのカタチまで含まれていると思う。 ビジネスだけとはいわないが、こういった言葉の定義が、仕事をする際とても重要だ。ありがちなのは、デザイン会社と企業の企画部が、プロジェクトを始めた後、何だか上手く進んでいないと思い、そこで話し合って初めて言葉の定義の違いが明らかになること。 話し合いをして定義が明らかになり、調節して上手く収まることもあるが、ベストなものは、仕事を始める前にお互い楽しみながら仕事をしていて、定義が違っても、調節し、違うから面白い結果になること。簡単ではないが、やりがいはある。

デザイン手法:ユーザー観察で重要なこと、その2

今までユーザー観察を手伝ったり、一緒にさせて頂いて、観察者の洞察力・ひらめきが凄い!と感動した瞬間が多くあった。ユーザー観察は、もちろんそのような洞察を得るためのもの。ただ、それは重要でありながらも仕事のごく一部であり、その洞察をを分かりやすくレポートに落とし込むこと、そして最も重要なことは、それらを実際にモノやカタチに落とし込むということをお忘れてはならない。 話をユーザー観察中の洞察・ひらめきに戻そう。凄い洞察力やひらめきは、残念ながら昨今流行っているイノベーション・ワークショップに参加するだけ、または観察手法さえ学べばできるものではない。絵を書くのが上手くなるのと同じで、そもそも才能があるか、又は実際にやることを圧倒的に多く経験するかのどちらかが必要とだ。ただ、大きな希望もある。それは、全く才能が無い人でも、観察をするのが好きで、時間をかけてひたすら数をこなし、実体験を重ねていれば、洞察力が付き、ひらめきが出るようになる。私自身、その才能が無いが観察が好きで経験を重ねることによってできるようになった事例だ。ここではっきりとしておきたいことは、「時間をかけて実体験」と「時間をかけて勉強」は全く別ものだということである。座学の勉強はあくまでも予備知識、予習だ。練習前に勉強し、知識を持つことは有意義だが、実際の仕事となると、座学はほぼ役に立たない。文章、動画、言葉だけでは、あまりにも多くの事が受ける側のイメージに頼ることになるからだ。 ただユーザー観察で経験を積むというのは、実は以外と簡単。今日から1日1回でも、何かを見る時、今まで気にしなかった細部に注目し、何故その細部はそのような形になったのか考えてみることだ。そして、実際に人が訳の分からない使い方をしていても、あれは特別な使い方だからデータは使えない、などと放棄せずに、あるがままを受け入れる。効果的なやり方、効率的なやり方をしていなくても、だ。これを1ヶ月続けると、今まで見えなかったものが見えて来る。3ヶ月続けると、世界が自分が今まで思っていたような場所では無いことに気が付き始める。1年続けると、リサーチャーと呼ばれても良いくらい、洞察力が付くのでは?