クライアントのイベントをプロデュースすることは、年に1,2回続けていたが、しばらく自分主催のイベントは開催していなかった。イベントのプロデュースをすると、毎回大きな学びがあるし、それを実行すること自体が好き。なので、また自分主催をスタートした。今回のイベント名は「発見の会」。人が集まると必ず発見があるので、その名前にした。発見するものはそれぞれの人の、その時の状況、興味範囲で異なるので、そこを大切にしたい。また、発見には会話が大切だから、この会は顔の見える、声の聞こえる参加人数にしておくつもり。今年1年続けようと思っている。今回を含め、3,4回は開催する予定を立てている。 第一回は、ご好意でTOTO株式会社のテクニカルセンターで開催させて頂いた。B2Bビジネスのために作られたコミュニケーション、コラボレーションの場。何故TOTO社が良い結果を出しているのか納得できた。徹底的に考えたモノ作り。難しい流行用語で語るのではなく、一般ビジネスマンであれば知っている言葉でコミュニケーションを図る。部外者に話しても差し支え無い範囲で、お話を伺った。社内外のコミュニケーション力も比較的当たり前のことがきちんと出来ていると感じたが、何よりも可視化されている状況商品テストや、その成果の見せ方が大変上手い。一人のTOTOの方が仰っていたことだが、「今年の計は、プライドを捨てること。プライドが無い方が物事進むから。」 私の今回の発見は、TOTO社からご参加頂いたお二人のお話を伺っていて、今まで何となく思っていたことが鮮明に理解できたことだ。お二人は、何年も前からエスノグラフィーを実践し、商品開発に活かして来ているが、気取らず、飾らず、当たり前のことを当たり前にやっている、というような感覚で話していらっしゃった。 ここからちょっと話が飛んでしまうが、ご勘弁を。 よく聞く話は、優秀な人材が会社を良くしていくということを理由に、優れた頭脳と性格、堂々とした学歴と経歴の人に会社に入ってもらうという経営コンサルタント、企業役員、人事の活動。それは間違った考えだということを今言えるようになった。それは、心理学に基づく。人は自分が大切だと思われたいし、自分の価値を認めてもらいたい。企業が素晴らしいビジネス成果を上げる法則として、堂々とした学歴と経歴が最初に来なくてはならないという根拠は歴史的に無い。市場にタイミング良く商品、サービスを出し、それがヒットして、それらの状況に合わせて一生懸命に働いた集団がビジネスの成果を上げる。その過程の中、堂々とした学歴と経歴の人が入り、集団の中の人達と同等に一緒に働き、苦労を共にすれば後から入ってきた人も仲間として受け入れられ、チームワークができる。だが明らかに自分達より「優秀」な人材が後から入ってくると、その前からそこにいた人達は、その人に対して心理的な壁を作る。そして、ありがちなのは、後から入ってきた人も、そこにいる人達がやっていることはレベルが低いと思い、それを変えて自分の思い描いている形にしようとする。市場が求めるものを提供している時にはそれでも会社は栄えるが、会社が変わらなくてはならない時期には、あらゆる問題が起こる。 何故TOTO社のお二人のお話を伺ってここまで思ったかというと、TOTO社のお二人の話の中で、何とか部署が全然分かっていなくて、とか、何とかの人達がこんなことをやるから私達はやりたいことができない、というような話が全く無かったことに気が付いたから。よく言う、「白いところ」に気が付いた。TOTO社のお二人は、自分達のやってきた活動や、それがどのように現在のビジネスに繁栄されているか、というような話を、飾り気無く話された。過去10年間企業のコンサルティングをしてきて、その「けなさない」ところ、「飾り気の無さ」が普段の会話や行動ににじみ出ている企業が順調にビジネスを行っているシグナルだと思うようになった。 当たり前のことを当たり前にできる文化。その文化を育んだ人達に大変興味を持った。本日ご参加頂いた皆様、有難うございました。
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厳しい環境が強いリーダーを作る
私がここ5年間ぐらいで何度も読み返した本の中に、元NBAロサンゼルス・レイカーズ監督のPat Riley氏の本と元NCAAバスケットボールUCLA監督のJohn Wooden氏の本がある。コーチングの本は山ほど出回っているが、偉大な実績を残したコーチの言葉の重みに勝るものは無い。 元NBAシカゴ・ブルズでMichael Jordanの監督であり、現在最強チームのLAレイカーズの監督のPhil Jackson氏の本もそろそろ読んでみよう。 Wikipediaなので、オープンに全部信じる訳にはいかないが、Phil Jackson氏の生い立ちや、人生経験は非常に興味深い。正しくお手本通りの勝者運命を辿っているようだ。厳しい親。しつけ。勤勉。他にはけ口がないからスポーツを頑張る。輝かしい花形にはなれなくても、努力と頑張りで人気者になる。心理学、宗教の理解。大きな肉体的な挫折を乗り越える。 Pat Riley氏、John Wooden氏、Phil Jackson氏、同じような人生パターンだ。厳しさ、努力、頑張り、話方、言葉の使い方のマスター。人と同じく、チーム、会社や国も同じようなパターンがあると思う。こう考えると日本に大いなる希望を持つ。私はどちらかというと文化的にアメリカ人だが、だからこそ客観的になれるのだと思う。きっと今の厳しい環境に育てられている日本人若手から素晴らしい、強いリーダーが生まれてくることだろう。楽しみだ。
ワークプレイスのあるべき姿:図書館を中心とした大学のキャンパス
ロンドン英国図書館について2年前にエントリーした。プロジェクト工房チャンネルに映像も載せた。あの時、ロンドン英国図書館が時代のあるべきワークスタイルの形だと思った。その後、幾つかの図書館をウェブ上で紹介させて頂いてきた。そして、今回は米国サンノゼ州立大学を訪問し、ワークプレイスの姿は「図書館」から、「図書館を中心とした大学のキャンパス」であるべきだろうと思うようになった。企業のオフィスでの仕事全てを考慮すると、今や先端の研究を行っている大学のキャンパスをお手本のすれば良いと思う。 中心は図書館で、面積も、機能も最も充実している。全ての情報がここで得られ、資料、データの入手だけではなく、その資料やデータを見ながら他の人達と話し合い、アイデアを出し、新しい知識を作るというプロセスを可能にする場と仕組み。ロンドン英国図書館のようなセッティングで、基本オープンだが情報によってはアクセスの制限をする。個人作業、グループ作業、だれでもいつでも作業、講演の場。食べ物、飲み物へのフリー・アクセス。誰でもがどこでもアクセスできる無線LAN。親切なライブラリアンが知りたい情報と繋いでくれる。セキュリティ・ゲートがついており、誰でも入れるが、貸し出しの手配をしない限り、開けたり、持ち出したりできない。 企業のオフィスという枠組みを外し、人が活き活きと働く、知識が流れ、アイデアが溢れ出る場という観点からワークプレイス作りを考えてみては如何だろうか? 他図書館エントリー参照: 千代田区図書館 ロンドン英国図書館 アカデミーヒルズ六本木ライブラリー
五感の内視覚は重要視されすぎている
人は外部の情報収集の8割を視覚で行っていると言われている。ただ、エスノ、行動観察をする際、他の感覚も視覚と同等に良く考慮する必要性がある。 例えばスターバックス。スターバックスが好きな人や、よく使っている人には色々と理由があるが、音楽が決め手という人もいる。エクセルシオールと流している音楽は明らかにテイストが違う。どちらかというと日本のジャズ喫茶を少し軽くしたような音楽ミックスなので、ラジオ局の選択をするようなものだ。それと比較して、音楽を軽視しているカフェやレストランは非常に多い。それらの経営者達が思っている以上に人は音のタイプと質にこだわっている。 例えばホテルの部屋。入ったとたんに、フレッシュな香りがすると、それで一気に快適な気分になる。その反面、かび臭い部屋は、見かけがどんなにキレイでも、気分が悪く、ホテル全体のイメージも悪くなる。 プライベートでもビジネスでも、人の感情は主に聴覚と嗅覚に左右されるのかもしれない。服装と香りをミスマッチさせた時の相手の反応の調査をだれかやったことがあるのだろうか?
「エスノ」って何だろう
聞こえは「エステ」みたい。軽い感じがする。 ウェブで検索すると、「エスノ」の意味は、 《元来は、民族を意味する接頭語》民族音楽。また、民族音楽の要素を取り入れた音楽、特にポップスをいう。 と出てきてびっくり。工業デザインや開発、研究に携わる人達が「エスノ」という言葉を、「エスノグラフィー」の略として使っているかと思っていた。調査や研究の際使う人間行動観察手法という意味だけじゃないんだ!と関心してしまった。 そして、私が良く知っている、日本大手製造企業に関わるデザイナー、研究者が使う「エスノ」の意味は、従来のエスノグラフィーの意味ともまた違う。従来のエスノグラフィーは、じっくりと人の行動を観察して洞察を得るもの。昨今企業内外でカジュアルに使われている「エスノ」の意味は、商品開発、デザイン手法として、行動観察だけではなく、その後の洞察のまとめ、総合化と、その総合化と作りたい、作るべき商品との関連付け、そしてその関係性を生かしたモノのカタチまで含まれていると思う。 ビジネスだけとはいわないが、こういった言葉の定義が、仕事をする際とても重要だ。ありがちなのは、デザイン会社と企業の企画部が、プロジェクトを始めた後、何だか上手く進んでいないと思い、そこで話し合って初めて言葉の定義の違いが明らかになること。 話し合いをして定義が明らかになり、調節して上手く収まることもあるが、ベストなものは、仕事を始める前にお互い楽しみながら仕事をしていて、定義が違っても、調節し、違うから面白い結果になること。簡単ではないが、やりがいはある。
デザイン手法:ユーザー観察で重要なこと、その2
今までユーザー観察を手伝ったり、一緒にさせて頂いて、観察者の洞察力・ひらめきが凄い!と感動した瞬間が多くあった。ユーザー観察は、もちろんそのような洞察を得るためのもの。ただ、それは重要でありながらも仕事のごく一部であり、その洞察をを分かりやすくレポートに落とし込むこと、そして最も重要なことは、それらを実際にモノやカタチに落とし込むということをお忘れてはならない。 話をユーザー観察中の洞察・ひらめきに戻そう。凄い洞察力やひらめきは、残念ながら昨今流行っているイノベーション・ワークショップに参加するだけ、または観察手法さえ学べばできるものではない。絵を書くのが上手くなるのと同じで、そもそも才能があるか、又は実際にやることを圧倒的に多く経験するかのどちらかが必要とだ。ただ、大きな希望もある。それは、全く才能が無い人でも、観察をするのが好きで、時間をかけてひたすら数をこなし、実体験を重ねていれば、洞察力が付き、ひらめきが出るようになる。私自身、その才能が無いが観察が好きで経験を重ねることによってできるようになった事例だ。ここではっきりとしておきたいことは、「時間をかけて実体験」と「時間をかけて勉強」は全く別ものだということである。座学の勉強はあくまでも予備知識、予習だ。練習前に勉強し、知識を持つことは有意義だが、実際の仕事となると、座学はほぼ役に立たない。文章、動画、言葉だけでは、あまりにも多くの事が受ける側のイメージに頼ることになるからだ。 ただユーザー観察で経験を積むというのは、実は以外と簡単。今日から1日1回でも、何かを見る時、今まで気にしなかった細部に注目し、何故その細部はそのような形になったのか考えてみることだ。そして、実際に人が訳の分からない使い方をしていても、あれは特別な使い方だからデータは使えない、などと放棄せずに、あるがままを受け入れる。効果的なやり方、効率的なやり方をしていなくても、だ。これを1ヶ月続けると、今まで見えなかったものが見えて来る。3ヶ月続けると、世界が自分が今まで思っていたような場所では無いことに気が付き始める。1年続けると、リサーチャーと呼ばれても良いくらい、洞察力が付くのでは?