仕事が染みる

テレビで小川三夫氏のインタビューを見た。最初の反応はわぁ、小川氏もこんなに年を取ったんだ!ということ。『木のいのち木のこころ』を読んでいたから、どうしても本の中にあった写真イメージがずっと残っていた。

『天』は何度も読み、『地』『人』は一度づつ読んでいるので、小川氏のインタビューはあまり一生懸命見ていなかったような気がする。後から考えるともったいないことをした。人の話の中からは必ず学びがあるのに。ましてや小川三夫氏の話だったのに・・・。

でも、なぜか今朝昨日のインタビューの一部が思い出されて、それが私にとって何の意味があったか分かったとき、空一面の暗い雲が分かれて、太陽の光がぱぁっと差したような感覚を受けた。

司会者:いかるが工舎では、みなさん10年で卒業しなくてはならないというのは?

小川:だいたい大工として育つのは早くて10年なので。そりゃあ育った人にいてもらった方が楽だけど、出て行ってもらわないと次の人が育たないですからね。

司会者:大工が育つのは10年かかるんですね。

小川:10年で育たない人もいますよ。だいたい教えれば5年で覚えます。でもそれじゃだめなんです。仕事が染みるまでは10年はかかります。心が育つまではね。

IQとかEQとか言われる。これがEQというものなのだろうか。いや、IQもEQも高くても、仕事は染みるまで時間がかかるということだ。人間は体の発育と、能力の発育と、心理・社会性の発育を全て併せて人間として成長する。そして仕事の道は、何でであろうと染みるまで時間をかけないと本当にできるということではないのだ。

『木のこころ』は、盛んに教育のあるべき姿、経営者のあるべき姿として取り上げられている。読んでいると、毎回その時私が直面している問題の取り組み方について見えてくる。今回小川氏の話から得られたのは、できるつもりになってはいけないという事だった。また、できるからもう学ぶことが無くなるということはない。与えられた仕事に好きな事を見出し、染みるまで続けて、そうしながら指示を出して教えるのではなく、後からくる人が見てまねをできるようにして、又自分で気がつくように必要なタイミングで指摘する。

私は本を読むのが大好きだし、うんちくを語るのも結構好きな方だ。経験が一番大切だから大好きな読書を止めることはないかもしれないが、常時意識して心を開いていなくてはいけないなぁと思った。

2 thoughts on “仕事が染みる”

  1. 流石に須田さん。
    職人の世界は徹底した三現主義であり、身体で覚えたものが伝承され、形となり残っていく世界である。そこには完璧とか、もうこれ以上学ぶものはないなんてことはありえない。なぜなら、現実は常に変化し、一見、同じように見えても実はどこかに違いがあり、だからこそそこにそれまで誰も気付かなかった新しい関係性が生まれ、その事に気付くことで、新しい価値の創造が可能となる。
    以前、相田みつおのビデオを見ていて、仏の教えとは深い森の中を僧侶がゆっくりと歩いて行く間に、その袈裟と衣が森の中の霧によって、しっとりと濡れるように染み込んでいくものである。決して豪雨のように集中的に濡れるのではない。という言葉があった。
    これを妙に覚えていて、「企業風土とか、企業理念なども多分そういうものだろう」と思っている。トップが突然メッセージを出せば、従業員が変わるのではなく、企業の中に如何に霧を立ち込めさせる事が出来るのか、が重要である。
    ある時は、これが「場のブランディング」であり、フィロソフィであり、一般的には企業独特の制度や仕組みなのだろう。

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  2. 中村さん、コメント有難うございました。
    確かに「トップが突然メッセージを出せば、従業員が変わる」ということはほとんど無いと思いますね。でも、この頃思うのは、トップがメッセージを出し、自ら実践すると、従業員も変わるという事もあるとも思っています。

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